東京高等裁判所 昭和34年(う)1856号 判決
被告人 松本博
〔抄 録〕
各所論は、被告人に速度違反の事実はないというのである。よつて按ずるに、原審第三回公判調書中証人豊田金次の供述記載部分、鑑定人平瀬和一の鑑定書、被告人の司法巡査及び副検事に対する各供述調書、原審及び当審における各検証調書を綜合して考察すれば、被告人は昭和三十二年十月八日午後四時頃東京都港区材木町方面から都電通りをトヨペツト五七年式小型四輪乗用車第五―三二一九号を運転し、霞町の交叉点前に到つたところ、赤信号が出ていたので同所の停止線で一旦停車し、青信号が出ると同時に「ロー」で発して都電青山六丁目停留所方面に向い、途中で「セコンド」に、更に「トツプ」切り替えて登り勾配1/17の道路を走行し、同区麻布笄町百五十二番地今井唐木家具店先の手前において「セコンド」切り替え、坂を登り詰めた麻布笄町巡査派出所先において更に「トツプ」に切り替え、その付近から同町百七十三番地付近に至る間約百五十米に亘り時速四十粁を超えるに至り、その間一時は時速五十粁に達した事実を認めることができる。原判決引用の公訴事実には同町五十一番地先から同町百七十三番地先に至るまで終始時速五十粁の速度で運転を継続した旨が記載されておるから、原判決は速度違反の区間及び速度の点において事実を誤認しているものとはいわなければならない。しかしながら、原判決が速度違反がないのにこれありとした区間の距離は、当審における検証調書によれば、約百六十米であり、速度の点において時速四十粁を超えて五十粁までであるに拘らず、終始五十粁で走行したと誤認しているのであつて、この程度の事実誤認があつたからといつて、犯罪の成否に何ら影響を及ぼさないのは勿論、量刑にも影響を及ぼさないことは本件の罪質上明らかであるといわなければならないから、右の事実誤認は判決に影響を及ぼすものではなく、原判決は結局正当であることに帰し、所論は理由がない。
(山田 滝沢 鈴木)